まっぽすさん

まっぽすさん(まっぽし=ぴったし当たる霊能者)

私が高校生くらいの頃、月に一度一週間ほど微熱が続き、倦怠感が酷く、病院の診察も「原因不明」「結核」「糖尿病」と迷走ないしは錯綜し、万策尽きた時期が2年くらいございました。
これは丁度その時分のお話です。

 

 

 

ピンっポーン!
階下の玄関のチャイムで目を覚ました。
母の騒ぐ声が止んだと思ったらトントントンと軽い足音が昇ってくる。まどろみつつも足音が家族のそれではないことに気づいたときには客人は部屋に入り込んでいた。
「なん休んどるとね。お見舞いにきてやったとばい。」
彼女は後に引きずらないタイプのようだが、僕は急に来られても頭も寝癖で油髪だし、オフショットを見せたくないので、アポなしは迷惑だが一応、形式だけでも礼は伝えなければならない。
「悪いね。心配かけて。」
「お父さんが一度あたしんちに来なさいって。みてあげるからって。」
「ん?父ちゃん医者じゃないよね?」
「んー、あたしもよくわからんけど、仏様にきいてくれるみたいだけん。家の前の観音堂がちょっと怪しいって言いよらしたよ。」
「それって霊能者みたいな感じ?」
「そーなのかなあ。いっつも熱出すから、お父さんにきいてみたと。そしたら連れて来なさいって言われたけん。」
如何わしい、ペテンの臭いがする、世の中の霊能力者の9割は偽物だと美輪明宏さんが言っていたぞ、など様々感じたが、元来、信心深い面を持ち合わせているし、病院では診断が迷宮入りしていることから、藁をもすがる思いというか駄目元で訪ねてみても、自分さえブレなければ、もしカルトだったとしても引き込まれないで済むだろう。
「わかった。今度いくって伝えてて。」
そうと決めればそわそわするから早く行ってしまうに限る。
「次の日曜日にでもお願い!」

 

彼女の父はどこか人を見透かしたところがあり、もし彼が真の霊能者なら自分の今までの悪行が露呈するのではないかと少々緊張しながら、一通りの挨拶を済ませた。
応接間に座ると、彼が焦点の合わない眼で僕の肩から頭上付近を険しい顔で見始めたので、僕は手持ち無沙汰になり、隣にいる彼女に助けを求めるように目配せをしたが、彼女は良いから黙っていろと言わんばかりにその鎮座の姿勢を崩さない。
「あのね、3人みえるね。3人の霊が憑いとるごたるよ。」
「えっ……。3人ですか。」
自分が憑依されている発想はなったので絶句するしかない。
「家の前の観音堂も気になっとったとだけど、今から仏様に事情をお尋ねしてみるけんこっちにきなっせ。」
と、彼の背後に鎮座ましましていた仏壇へと僕は誘われた。
「正座ばして合掌してお辞儀せんね。あと、住所と名前は?」
彼はそれをメモして仏壇に向かって何やらお経を詠唱し始めた。
ムニャムニャと上手く聴き取れないお経の途中に今教えた僕の名前と住所がはっきりと何度か聴こえてくるので、その度に笑いを堪えるのが大変だ。
これは壮大なドッキリか新手の嫌がらせではなかろうかと一瞬、脳裏をよぎったが、友達と呼べる存在もいない僕にそんなことをする物好きはいない。
「よし。戻ってよかよ。」
脳内で格闘しているうちにお経は終わったようで、彼女の横に戻る。
「まずね、一人は水子。」
「えっ。でも俺まだ…。」
意表を突かれて戸惑う。
「そう。だから、お父さんかお母さんのだね。でも、ただ君を見守ってくれてるだけで、何も悪さするわけじゃないけん。」
「は、はい。」
両親の生々しい姿を否応なしに想像させられて気が滅入る。
「もう一人は、えと、お父さんかお母さんの兄弟で小さかときに亡くならした人がおらすど?」
「そう言えば、お父さんのお姉さんが四歳くらいで亡くなったはずです。」
父の夭折した姉の話は自分の中でも失念していたので、これは気味が悪い。
「でも、その方も君をただ見守ってくれとらすだけとばってん、三人目の方が君の守護霊で、ひいお祖父さん。」
曽祖父は確か最後は自殺したはずだ。
彼女の父君は真面目な顔で解説を続ける。
「そのひいお祖父さんが君を怒っとらす。目上の人に対してね、乱暴な言葉使いをしたりだとか、暴力をふるったりだとかして尊敬しとらん態度を正すように言いよらすとよ。」
やはり悪行がバレて肩身の狭い思いをする羽目になり、返す言葉もないが、この僕の反抗期情報は彼女から彼に聞かされているかもしれないので信頼度は半信半疑といったところか。
「…はい。態度を改めればいいんですね。」
「あと、明日の朝から濃いお茶を毎日、仏壇にあげなっせ。そしたらその鼻ぐずぐずしよるのも治るけん。」
半信半疑といっても僕の奇病は既に病院からは見放されているから、僕には正直この仏教なのか新興宗教なのか得体の知れない教理にすがる他なく、加えて、少なからず神仏の世界にも憧れに似た畏怖の念を持っていたことから、その翌日から何の迷いもなく守護霊の教えを実践できると思う。

 

 

 

 

 

私は次の日から、彼の忠告どおり、自分の傍若無人な行いを自省し、猛省し、毎朝、仏壇に濃いお茶とお祈りを捧げ、努めて家族に優しく紳士的に接したところ、数年の間欠かさず毎月決まって訪れてきていた微熱と倦怠感がぱったり来なくなったのです。

 

 

それから20年近く月日が流れましたが、未だにそれは続いており、毎月一度の微熱に苦しむことも、病院で結核や糖尿病を疑われることもなく、心身ともに健康・・・かはさておき、とりあえず真人間として過ごせることができております。

 

あの時は精神的に未熟であり、まともにお礼も申し上げることができていなかったことが悔やまれます。
私はあのときから今までずっとあなたのことを忘れておりません。
人と人とのご縁に感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 司法書士・行政書士 坂ア徳夫 総合法務事務所(有限会社 丸江商事 併設)
 代表 坂ア 徳夫
(司法書士登録番号 第470788号/行政書士登録番号 第19430156号/宅地建物取引士登録番号 第010045号)
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まっぽすさん

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