『不道徳教育講座』三島由紀夫著

『不道徳教育講座』 三島由紀夫著

「人の恩は忘れるべし」「約束を守るなかれ」コンプライアンスの順守が叫ばれる昨今においては拒絶反応が起こるであろうこれらの不道徳な文言は著書の目次の一部です。
まず、「『あの人は全く恩知らずだ。これだけのことをしてあげたのに、知らん顔をしている』とか、誰それがお礼を言うのを忘れた、とかしじゅう言い暮らしている人」の「人生は灰色」であるとのことです。
そして「恩には『恩返し』というものがあるべきだとされている」ことが「恩返しの美談を卑しく見せてしまう」から「次のようなのは理想的」としています。
偶然に街ですれ違った幸せそうな家族連れの青年は、十年前に山で命を助けた男だったが自分のことを忘れているらしい、恩人は、彼の幸せは自分が助けたからだ、ひとりそう思うだけで満足だし、彼の家族に「恩人だなんて紹介されたら、照れくさくてかなわん」「こうして恩人はせい一杯幸福になって、姿を消す。」青年のほうは後に恩人を思い出し「あのとき山で死んでいたら情熱と理想で一杯のまま死ねたのに、今やお先真暗なしがないサラリーマン」「恩なんか忘れちまえ!」と恩返ししなくなる場合です。
この場合、恩人にとっては青年に忘れられていて、むしろ喜ばしい結果となっているし、青年は助けてほしくなかったと思っているのだから、恩人を忘れっぱなしになっていた方が精神衛生上よろしかったことになります。
つまり、「恩返しは人生を貸借関係の小さな枠のなかに引き戻し、押しこめて局限してしまう」が「猫的忘恩は、人生の夢と可能性の幻影を与えてくれる」とのことでした。
次に、友人に借金を返さなくて良いとしています。「ああ忘れてた。明日にしてくれ」とでも言えば、友人は立腹し言いふらすが、その「評判は貴下をますます豪傑に見せ」逆に友人を「卑しい小人物に見せますから、貴下のトクです。」というのがその理由です。
また、「会議に課長の代理で出席すること」も反故にしてよいそうです。
なぜなら、「課長の欠席が、社長にマークされ、課長が却ってクビになり、貴下がその後釜に坐れるかもしれないからです。」
そして、恋人との約束は「守らないほうが利口です」。待ち合わせの約束を破られて長時間待たされるのだから「はじめは怒るが、おしまいに貴下の身にかかわる交通事故を心配し、ほうぼうの警察へ電話をかけ、あげくのはてに数日後貴下の無事を知って大安心し、すっかり今度は、貴下に惚れ抜いてしまいます。」
ほか、「人のふり見てわがふり直すな」「人の失敗を笑うべし」「大いにウソをつくべし」「人の不幸を喜ぶべし」など刺激的かつブラックユーモアに富んだ章もあります。
著者はあとがきで、「鼻持ちならない平和主義的偽善を打破するためには、こういう軽薄な逆説、多少品のわるい揶揄の精神が必要だった」が、もちろん「軽い気持ちで、面白おかしく」書いたので「ただ、たのしんで読んでもらえばそれでいいのかもしれない。」と書いています。
著書の文言を額面どおりに捉えることは難儀ですが、笑いと一言で言っても、その場で爆笑するが後を引かない笑い、翌日に思い出してクスりとにやつく笑い、一見して笑えないが一周廻って笑える笑いと様々です。
著書の「軽薄な逆説、多少品のわるい揶揄の精神」を毒にするか薬にするかは読み手次第なのかもしれません。
(なお、旧仮名遣いは新仮名遣いに改めさせて頂きました。)

 

 

 

 司法書士・行政書士 坂ア(坂崎)徳夫 総合法務事務所(有限会社 丸江商事 併設)
 代表 坂ア(坂崎) 徳夫(さかざきのりお)
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