「永遠のなかの一瞬 わが命 父母待つ浄土(くに)へ 明日や旅立つ」

「永遠のなかの一瞬 わが命 父母待つ浄土(くに)へ 明日や旅立つ」

この仕事を始めてすぐ、駆け出しの頃に、知人の紹介で相続登記のご依頼
がありました。依頼人の方は私の父親ほどの年齢で「先生」と呼ばれておられ、依頼内容は先生の御父上の相続手続きでした。

 

私は、ご依頼人とお話する際、仕事のこと以外、例えば、健康や心の不安に関することやご家族についての心配事、果ては、前日の相撲の取組結果なども、楽しくといえば御幣があるかも知れませんが積極的にお話させて頂いています。

 

その時も先生は、お孫さんのために購入された鯉のぼりや近所に増えてしまった野良猫の保護方法などをお話頂き、それから数度、ご自宅へお伺いしては仕事のお話を終えたあとのタイミングで猫の塩梅を尋ねたり、野良猫の保護団体をご紹介したことを覚えています。

 

また、私が独身だということがわかると、先生は、司法書士なのにもったいない、親戚に20代半ばの女性がいるから紹介すると言われ、私が生返事で狼狽しているとその場でその女性に電話をかけられてしまいました。
人間の良さげな司法書士の青年だから紹介したい旨を電話で話されていますが、私はお断りする機会を完全に逸してしまい一層うろたえています。
すると、先生は電話を繋いだまま私に年齢を尋ねられ、私が37歳だと答えると、先生はポカンとされているご様子で、私が20代後半に見えていたらしく、少し年が離れているなあと先生も困惑気味です。

 

若く見られたことについてはやぶさかではないし、むしろ喜ばしいことで、個人的趣向からすれば年齢差も性別問わず関係がないのですが、何となく居たたまれない気持ちになり、暗に流動的な方針が3人の一致した結論のようで、先生も、いやあ20代に見えたものだから、と苦笑いに近い微笑を浮かべられています。

 

先生は朴訥なお人柄ですが、その体得された真理と人間力からくる徳に裏打ちされた控えめともいえる柔和な表情が私は好きでした。

 

相続登記の報酬を頂く際、司法書士の報酬とは別に、本当は食事にでも連れていかなければならないのだがコレで美味しいものでも食べて、と別れ際に1万円を頂戴したことが忘れられず、先生の「御報酬」と達筆な草書体で書かれた封筒は今でも大切に保管しています。

 

するとその翌年、先生のお母さまがお亡くなりになったと相続手続きのお電話がありました。お慕い申し上げている方とお身内のご不幸があったときにだけお会いすることは心苦しいものです。
しかし、その翌年はお住まいを新築されたとのことで保存登記のご依頼だったので、新居独特のワクワクとした佇まいをご自宅や先生から感じていました。

 

先生がお亡くなりになったとの訃報を聞いたのは、それから1年か2年後で、最初に先生とお会いした時から4年が経ったころです。

 

私は先生とは仕事上のみのお付き合いでしたが、自分が駆け出しの人間的にも未熟な時分にそうやって先生の子供のように優しく接して頂いたことを頻繁に思い出していたので、先生の相続手続きといっても簡単には感情の整理をしたくありません。

 

知らせを聞いてすぐに先生のご自宅に赴きました。まだ新築の香りがする玄関をくぐると、お仏壇に先生のご遺影があります。奥様にお悔やみを申し上げ、お仏壇へお参りさせて頂きました。

 

先生のご遺影の表情は、美しい笑顔で、やはり、真に優しく真に厳しい方のそれでした。
以上に書いたような記憶が蘇って涙が出そうになりますが、長年連れ添われた奥様が一番悲しいはずなので相続手続きでお邪魔している私が泣くことは、はばかられます。私のそのときの想いは説明することができません。寂しいのか哀しいのかもはっきりとしませんが無念でならないことは間違いありません。

 

先生に御礼を捧げてご冥福をお祈りした後、以上のような私の先生への想いや出来事を奥様にお伝えすると、奥様が先生の詳しい病状についてお話下さりました。
ご両親を連続して亡くされてほっとする間もなく、年に1度の人間ドックで余命宣告をされたこと、先生の希望で病状は周囲に明かさず、入退院を繰り返しながらも生きる希望を失わず、懸命に治療をされたこと、先生のご自宅の介護ベッド周辺で、奥様や娘さんが、走り回るお孫さんのお世話をしているとき、先生はまるで眠るように安らかにみまかられたこと、先生が余命宣告を受けた後、何度も遺書や句を書きしたためられ、そのご様子を見る度に奥様は筆舌しがたいお気持ちになられたこと、そして、先生がお亡くりになった今でも奥様のそばにいる気がするからあまり寂しくないことを教えて頂きました。

 

その後、奥様はお孫さんのお世話で毎日のように娘さん達にお会いになり、またある習い事の教室にも通いだしたとのことで、毎日、一生懸命に楽しくお過ごしになっているようでした。

 

表題の文言は、ご遺族の方に本誌へ寄稿することを許諾頂いたもので、先生が闘病期間中に、その書体も含めて、幾度も推敲されていた辞世の句なのです。
「永遠のなかの一瞬 わが命 父母待つ浄土(くに)へ 明日や旅立つ」

 

先生、ありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。

 

 

 司法書士・行政書士 坂ア(坂崎)徳夫 総合法務事務所(有限会社 丸江商事 併設)
 代表 坂ア(坂崎) 徳夫(さかざきのりお)
(司法書士登録番号 第470788号/行政書士登録番号 第19430156号/宅地建物取引士登録番号 第010045号)
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