自伝的小説

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曇天

 

 

 

透き通った青空を背景にした海辺の結婚式場から突如ファンファーレが鳴る。
信号機色の風船が、洗濯機の渦のように小春日和の青空に吸い込まれて行く。
「あ! 綺麗だね!!」
隣に座っていた女が、食後のコーヒーと笑顔を混ぜながら僕に言った。

 

近くの席にいるカップルや
海辺にいるサーファー達も、何人かは、僕らと同じように上空の風船を見上げている。

 

式場から参列者がでてきて並び、拍手と鐘の音色と共に新郎新婦が出てくるやいなや、二十羽ほどの白鳩がファサファサと上空の風船の方へ羽ばたいていった。
今日の主役達は言わんや、参列者でさえ一様に笑顔で楽しげにみえる。
そこの景色は、あたかも僕らのデートを誰かが演出しているかのようで、にわかに僕たちが主役になったような気がした。

 

「もう想い出ができたねー!」
その女が一本調子な声色で続けた。

 

その間、
風船達は風に流されることもなく、ほとんど真上に昇天し続ける様を意外に長く僕らに見せてくれている。

 

それは、あたかも魂が還るべきところに還っている儀式を見ているようで、僕はその荘厳たる様をできるだけ長く見守っていたかった。

 

「そうだね。」

 

僕もコーヒーを左手で探りながら声が乾いてしまわぬように、なるだけ努めて調子よく答えた。

 

そして、また僕は、
この女を捨てる方法、つまり、後腐れなくお別れをする手段を一考する。

 

そうこうしているうちに、昇天を続けていた彼らは既に肉眼で確認不可能なほどに遠く、薄く、そして小さくなっていた。

 

 

 

 

 司法書士・行政書士 坂ア(坂崎)徳夫 総合法務事務所(有限会社 丸江商事 併設)
 代表 坂ア(坂崎) 徳夫
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